神社にて



 仕事の合間に近くの神社の石段を上り下りしている。大きな銀杏に日差しを遮られ涼しい風が滲む汗を冷やしてくれる。神社には近隣からいろんな人がお参りにくる。定番コースのように速足で石段を登り鈴を鳴らし手を合わせる男、二人で手を合わせ何か祈念してる男女の後ろ姿、いろんな願い事を背中に感じる。また参道を散歩する人たちもいる。今日も老人から声をかけられた。「よくもこんな石段を登れるなあ、俺は気胸だから無理だ」と。よく聞くと川崎の大きな製鉄所の現場にいたとのこと。「送迎バスが70台もあった」そうだ。工場の規模をバスの台数で説明するなんて子供のようだ。でも「幹線道路は排煙で霞んでいた」そうで「だから気胸になってしまった」。老人の複雑な思いが伝わってくる。彼には変な慰めより仕事への共感を伝えよう。彼の携わっていた鉄鋼製品の知識を少しだけ披露する。「油井管っていえばシームレスパイプですよね」「そうだ、よく知ってるな」。目が輝く。「中国にも何千トンと輸出した」「すごいですねえ」。「いまはもうだめだけどな」、、、、。製鉄所を勤め上げた男の悲哀が伝わってきた。

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