「あの上は崩れている」、昨年世附の大又沢林道で会った男の言葉だ。あの上とは世附の地藏平から城ヶ尾峠に登るルート、所謂「サカセ古道」のことだ。この峠道が城ヶ尾峠の手前で崩れてるとのこと。このような言葉はかえって興味をそそるものだ。なぜか「行くのはよそう」ではなく「見てみたい」となってしまう。
彼は説明を加えて、「尾根を直登すればいい」とのこと。その尾根とは城ヶ尾山から発する支尾根のこと。だったら城ヶ尾山からその支尾根を下れば問題の崩落個所が見れるかもしれない。城ヶ尾山は道志側から登れば訳ない。私の「見てみたい」との思いは案外と簡単に遂げられそうだ。土曜日の朝から賑わうオートキャンプ場を抜けていっきに城ヶ尾峠へ上る。やはり城ヶ尾峠では地図に記されているルートの分岐は確認できない。そのまま峠から上へ約100メートルにある城ヶ尾山へ。ここから地藏平方面へ支尾根が延びている。彼の「直登すればいい」と言っていた尾根だ。ここを下れば問題の崩落個所に至るルートに出会うはずだ。さあ、下ってみよう。踏み跡らしきものもある。
城ヶ尾峠にある警告板 |
支尾根を下り始める |
はじめはなだらかな尾根下りもやがて急下りとなる。下ること約5分、やがて木々の間に平らな広場が見えてきた。更に近づくと地図にある道標も見えてきた。そして尾根沿いに明らかなトラバース道もはっきりと識別できる。平坦部に下りてみると道標の指示方向はトラバース道から下方の信玄平、地藏平を指している。地藏平から登ってくると峠道はこの急上りを避けて甲相国境尾根にトラバースして城ヶ尾峠へ導いてたのが判る。じつにありがたいトラバースだったはずだ。
トラバース道に入ってみる。あまり踏まれてないせいか足元も緩い。木の枝につかまりながら歩くこと約100メートルでいきなり崩落個所がでてきた。ああここが彼の言っていた「崩れている」ところなのか。丹沢特有の緩い砂状の土砂が斜面から露出している。ここが1年もの間、私の興味をそそってきた「崩れている」ところなのだ。これは私だけが抱ける達成感だ。山頂を極めた達成感は判るが崩落ヶ所に行きついた達成感なんておかしいが。崩落現場をよくみると砂状の崩れの上に踏み跡らしきものがかすかにある。が、危険は冒したくない。以前に崩落個所でずるずると足を取られ怖い思いをしたことがトラウマとなっている。崩落個所は近づくだけで危ないのだ。それにこの調子だとこの個所をクリアしても更にその先で崩れているだろう。ここは遠目に見るだけで達成感とともに引き返すことにした。
道標に戻りしばし古道への思いを馳せる。実際に歩いてみるとこの峠道は甲相国境尾根を越えるには最も適したルートであることが判る。信玄平という名のポイントもあるので、もしかして馬も行き来していたのかも知れない。しかしいまや地藏平は廃村となり、その先の三保の集落も丹沢湖の湖底に沈んでしまった。峠道を廃道化させるのは崩落というよりその利用価値が薄れてしまったことによるものなのだ。あの崩落ヶ所も修復されることはないだろう。現にこの「サカセ古道」は地藏平の先、二本杉峠との間はすでに廃道化されて地図からも消えている。この峠道は何百年と続いた峠道も戦後のわずかな間に起きた山の産業の衰退とともに崩れ落ちてしまったのだ。今や朽ちつつある道標が通る人もいない峠道に寂しそうに立っているだけである。
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